銀行辞めてみた2 (人事部・銀行の営業)
こんにちは、あおやんです。
前回に引き続き前職の楽しかった思い出の日記記事です。
街中で看板を見つける度に懐かしい気持ちが込み上げてきます。
そうそう、最後の源泉徴収票が出てきたので載せます。
支店から見た人事部
職員は全部で4,000人いるところ、毎年300人くらい辞めているようです。
人事部さんとの面談の時に聞いたお話だと『辞める奴はどんどん辞めてもらって結構。代わりに中途で採るからいいんだよ。どんだけ銀行が叩かれていてもうちは大丈夫だろ。うちは地銀トップなんだから』と。すごい自信です。社会情勢に目も向けず盲信的に銀行を信じ続けることができるなんて、社会人の鏡です。
銀行では年に1回人事部との面談があります。ここで業務適性を見られたり、将来の希望を話したり、プライベートでの悩みや家族状況の変化なんかを聞かれます。パワハラやセクハラがないか探りを入れてきますけど、正直に話すとあとで上席から叱責を受けます。人事部には守秘義務はありませんからね。
そもそも銀行には『内部通報制度』というものがあります。支店でパワハラ・セクハラ・コンプライアンス違反があった時に支店の上席を通さず報告できるという制度です。言い辛い気持ちを抱えたままにさせない素晴らしい制度です。そして内部通報制度は効果テキメンでしっかりとフォローをしてくれます。しかしよく効く薬は副作用はあるのが世の常。この通報制度、セクハラをした担当者は厳しく罰せられると同時に通報者は『何かあればすぐにチクリを入れる危険人物』というレッテルも貼られます。そこからは一生腫れ物として扱われます。地方銀行は小さな社会です、あっという間に支店に噂は広まり、風化することはなく次の転勤先まで伝わります。転勤が決まると転勤先から『どんな奴なの?』と密偵が入りますからね。この制度が守りたいのは職員ではなく銀行です。あくまで大切なのは外聞・風評であることを忘れてはいけません。
しかしものは考えようです、出世さえ考えなければレッテルがあった方がストレスフルな職場への異動は命じられなくて済みます。チクリ野郎はそんなところに置いておけませんからね。出世さえ…言い方を変えて、給料が上がることを諦めて、同期やかつての自分の部下がどんどん出世していくことを平常心で眺めていられるのであれば窓際ほど美味しい場所はありませんね。むしろストレス耐性あると人事ファイルに記録されキッツい支店長のところばかりに配属されます。
年に1回の人事面談の話が途中でした。面談では希望を聞かれますが多くの女性職員は『事務職が良い』と話しますがそこの部分は人事部の耳には届きません。ただの事務だけやる人は必要ない銀行と営業活動をやりたくない職員とのせめぎ合いです。しかし言葉の節に『投資信託も嫌ではない』という言葉を聞くと、そっちに誘導するんですけどね、人事評価には営業に前向きとの評価がつけられて一生投信の売る機械にされてしまうということです。
銀行の方針でAI化を進めることになっています本当に事務だけの人は淘汰されていくんでしょうね。全職員向けの頭取メッセージで正社員は全員営業をしてもらうと言っていましたし。人事部でも『営業やりたくない奴は辞めてもらった方がいいんだよ、だいたい採る時に説明してんだよ?』とおっしゃいます。きっと営業が嫌なんじゃなくて女性行員でも泣くまで詰めるその文化・プレッシャーが嫌なんだと思いますよ。
人事部は選ばれたエリートだけが集まる優秀な部署です。なぜわかるのかって?社内イントラ(社内の人だけが見ることにできるパソコン上のシステム)の部署の掲載順に現れているのです。人事部は常に1番上、天界です。1番下は事務センター、地の底という意味ですね。もし銀行に入社される方は社内イントラを見て確認してみましょう。
弐店目(お客の利益は銀行の不利益!?)
さて自分の話。転勤先は都内店舗です!!地方銀行で勤務している者としては融資先がいっぱいある東京に転勤できるのはとても嬉しいことなんです。たくさん融資先がある=成績上げて出世への道がひらけますからね、成績さえ良ければ。
●初めての営業
ここの店では初めて営業係に任命されました。嬉しい(`・∀・´)さて何をすればいいの?先輩に聞くも『外行って仕事取ってこい』とのこと。まずは引き継いだ先、主に中小企業に訪問していきます。しかし初めて営業に出る若手担当にそんな良い先は任せてもらえません。当たり前です、ヘマやらかして取引切られたら大ごとですから。だいたい月の融資額の目標が2億くらいで担当させてもらった各企業の半期の約弁見合(毎月の返済によって当初の融資額から減った分を補充してあげる融資のこと)も300万とかしかなかったですね。そんな先30先持っていても半期で9,000万しか実行できないのです。基本的には新規で取ってこいよ、アパートでも建てさせろよ、というスタンスです。今みたいに同行訪問もない時代、何もわからないまま外訪するのは怖かったですね。でもそれは大きな間違いで、自分で事前準備をしていなければならなかったのです。先輩の仕事見て盗んだり、マニュアル読み漁ったり、クレジットファイル読んでみたり。その発想もないままボーッと生きてた私は突然の営業係で戸惑ってしまいました。銀行に入社する予定の皆さんは自発的に学んでいかないと突然死が来ることを肝に銘じておいてください。私自身ここは大いに反省するところ。まぁ、そもそもこのご時世、新卒で銀行で働こうなんて思う人が出ないことを祈っています。
●運転資金って?
そもそも銀行の1番大事な商品『運転資金』についてさらっとお話しします。合ってるといいんですけど。設備資金は工場建てたり、機械買ったりとわかりやすい資金なので割愛。
企業が商売をする時には運転資金が必要です。例えば部品を作っている工場では製品を納品してからお金を払ってもらうまで期間が必要です。企業間の取引は即金ではないのです。仮にこの期間を3ヶ月必要とします。このお金を売掛金。逆に自分が仕入れた材料の代金を支払うのも即金ではないため猶予があります。これを仮に1ヶ月後だとします。これを買掛金と言います。そして在庫を抱える商売もあるでしょう。そうした場合在庫が月商の何ヶ月分くらい保有するかも関わってきます。仮にこれを年間の商売の1ヶ月分とします。
この売掛金と買掛金の差が運転資金となります。
年商120百万円の会社が上記の条件に当てはめると(手形なし)
120百万円÷12ヶ月=10百万円(月商)
10百万円×(売掛金回収まで3ヶ月−買掛金支払まで1ヶ月+在庫1ヶ月分)=30百万円
30百万円の運転資金が必要ってことです。
取引先との支払い条件が変わらない・新規取引先が出てこない限りこの運転資金はだいたい同じ額が常に必要になるわけです。業種や取引条件によるので一律化するのは荒っぽいのですが銀行が考える運転資金は大体月商の3ヶ月分くらいがいいところなんじゃないでしょうか。
運転資金にも貸し出しできる年数が大体決まっていて、昔は3年程度、最近は5年まで。保証協会つけてなら7年とか。新しい取引先を開拓して売り上げを増やしている企業ならいざ知らず、ずっと同じ取引を続けている企業でも利益を蓄積して手許に運転資金を作って行くべきでしょ。
最近では短コロが復活しました。短期転がし融資。タンコロ。これは必要な運転資金の枠を計算してその分の融資を貼り付けます。そして返済はしなくて大丈夫です。銀行が勝手に期限を更新してくれます。取引条件に変化がないなら、売上が増減しないなら常に同じ額の資金が必要になるからです。銀行は約定返済(毎月の返済)もなく残高をキープしたままお利息をいただき、さらにタンコロ組成手数料も貰っちゃうという作戦ですね。もともとは昔から存在していた融資方式ですが、お国の方針の転換で『約定返済つけなよ』ということで一時期消滅していた貸し出し方法なのです。この貼り付けたはずの融資に約定返済をつけたら貸し剥がしとか貸し渋りという概念は出てくるわけですよね。
●金利の更新
私の所属していた店では中小企業以外にも地主の取引先も多くありました。地主たちは昔から銀行の食い物に…いえ大切なビジネスパートナーだったのです。バブルの時は『年金保険(投資型、元本保証なし)をやりましょう、絶対儲かりますよ。購入資金?融資します、土地を担保にね』という形。最近では『相続対策でアパート建てましょう、建築業者も紹介しますから(建築業者からは請負額の3%手数料もらうけど、それは建築費に乗っかります、それは内緒)。』こんな感じ。まぁ、金融庁もうるさいので相続対策と言う名目を稟議書には書かなくなっていますけど、手法は同じままです。
そして一旦アパートの融資をすると金利の更新の手続きがあります。住宅ローンを借りていて期間固定(3年固定とか10年固定とか)を選んでいる人は知っているかもしれませんが、『一定の期間は金利〜%で固定します、そのあとはその時相談しましょう(自分は転勤していないし)。その時相談するので、とりあえず契約上は固定期間切れたら変動金利にしますね』というのがアパート資金などの事業性融資の固定金利の考え方。通常2年固定3年固定5年固定から選んでもらいます。7年固定は本社が嫌がります。事業性資金は時に住宅ローンと比べ物にならない融資額になるので銀行は長期の固定金利にするリスクを負いたくないわけです。負いたくないリスクはお客さんに押し付ければいいのです。
この金利交渉にはコツがあってマックス下限限界の金利をお客さんに提示してはいけません。多少交渉の余地を残さないとお客さんから下げてくれと依頼あった時に困るからです。または下げたフリして何か商品(クレジットカードとか保険とか投資信託とか)を『お付き合い』いただくというのも常套手段です。マッチポンプの要領ですね。そしてこの時の営業次長から習った金言は『お客の利益は銀行の不利益、金利を下げることはお客は良くても銀行は良くないんだ!』ということ。資金利益が下がって良くないのは営業統括のあなたの立場でしょうというツッコミは置いておいて部下行員はこの指示を遵守します。今はマイナス金利ですので1%を超える金利でアパート融資を受けている人は銀行のとてもいい鴨‥お客様になっていますよ。さっさと利下げの依頼か、借り換えを検討した方がいいですね。ただし固定期間中の約定変更・繰上返済は違約金が発生します。そんな時は『違約金の説明は受けていない、銀行員が勝手に実印押した。金融庁に相談する』と言いましょう。だいたいの銀行員は契約の時『じゃあ印鑑はこちらでお預かりして押しますねー』とやっているわけですから。契約の時の状況記録も銀行のコンピューターに入力していますが大部分の担当者は雑務として適当に書いています。担当者がかわいそう?そう思ったあなたは優しいですね。でも銀行はあなたのことをそんな風に見ていませんよ。もし大切なお客様と思っているなら金融商品を提案してきませんもの。銀行の中でアパートのオーナー様はどんな風に言われているかご存じですか?『仕事に貴賎はない、だが不労所得だけは別だ』と。
●支店長
そうそう支店の主役の支店長のことを書かないといけませんね。北海道拓殖銀行からの転職組です。外様です。しかしお利口さんでした。お利口さんはいつも支店で寝ています。表敬訪問でお客さんのところに連れて行ってもグーグー寝ています。お客さんから見える支店長席でもグーグー。3時過ぎたらお客さんの座る長椅子でグーグー。市場営業部に転勤してもグーグー。それを本部のお偉いさんに見つかって閑職に移動しても寝続けていたみたいです。支店長は支店で1番偉いので何をしていてもいいのです。彼に関しては何の印象もないですね。
●ドブ板営業
地方銀行は基本的に(しらみつぶしに回る)ドブ板営業です。コスモスという帝国データバンクの資料を使って靴底がめくれ上がるまで訪問を続けます。だんだん慣れてくると紹介もしてもらえるのですが、紹介先への融資を断ると気まずいことになるのでお客様からの紹介(業況のわからない)でなく、自分から落としたい地元有力企業を指定しての紹介だといいですね。決算書の売掛金リストや所属している団体(経営社会とか消防団とか)から紹介してもらいます。それ以外のドブ板は夜討ち朝駆けは当然、雨や雪の日は大チャンスです。土日に大雪が降ろうものならお客さんの会社の雪かきをするなんてこともありました。他にもお客さんの社員旅行の運転手をかって出たり、事務所の引っ越しを手伝ったりそんなことばかりやっていましたね。お客さんの接待でキャバクラ行って根性焼きされたこともありました。お客さん同士のマッチングを手伝うのも効果的です。事務所をリフォームするから業者紹介してくれというのに、支店の取引先の業者を紹介したり。銀行が契約しているビジネスマッチング先(手数料をもらえる代わりに値段が上がるやつ)を紹介するよりよほどまともですね。支店長は手数料取れないから怒りますけどね。
そんな中、特に有効な営業手法は優越的地位の活用です。優越的地位の濫用、この言葉を聞いたことはあるでしょうか。融資を扱う金融機関ではご法度のシステムです。銀行は融資を扱う会社です。扱う商品の性質上お客様よりも立場が上になることがあります(大きな勘違いなのですが)。お客様自身も、控えめな方ほど『貸してくれてありがとう』と仰ます。それが彼らを増長させるのでしょう。預金者から預かったお金を又貸ししているだけなのに。その優位な立場を使い商品を売りつけることを『優越的地位の濫用』というのです。この融資を通して欲しければ積み立て預金に付き合ってくれとか、この投資信託を買ってくれると次回の運転資金の融資の時に意見書を書く熱が入りますよとか。とどめのセリフは『わかってますよね、社長?』。しかしこんなことしょっちゅうやっていると警察沙汰になってしまうので、言葉には出さず上手にお客様をコントロールしろというのです。『濫用』ではなく『活用』。さも苦労して融資協議を通したと印象づけ、お客様自身から自発的に協力させるというものです。恩義せがましい会社です。そもそも苦労したのは銀行の都合であって『そんなに無理をするくらいなら他で頼むからいいよ』と言ってやってください。今の銀行にメインバンクなんて考えないですよ。メインだから業況が悪くなったら支援します。嘘です。メインじゃなくても条件緩和しています。結局はその時その時の業況を見ているだけです。
●ノックイン投信
確かこの時期流行っていたのが日経平均連動型元本確保機能付きノックイン投信です。例えば今の日経平均が20,000円とします。5年間の間、日経平均が16,000円〜22,000円のレンジで動いている間は金利5%付けますよ。もし5年間の間に16,000円を下回らなければ20,000円として元本をお返ししますよ。下回った場合にはその時の価格にして返します。逆に22,000円を上回っていたら早期償還です。『日経平均が16,000円を下回ることってあると思いますか?‥ですよね、なかなか考えにくいです。じゃあこの商品って元本保証の商品ですよね』みんなこんなこと言っていましたね。何件か訴訟になっているはずですよ。5年定期預金と言って売っている担当もいましたから。あの頃はめちゃめちゃ流行っていました。というか、みんな一つの銘柄しか販売しないのです。お客さんの希望も適合性の原則もなにもない、ただ本部の言う一つの銘柄を売る手法だけを磨き続けます。狂信者です。さっき久々に窓口に行ったら5G企業に投資する投資信託のポスターがありました。今は全支店の営業係、窓口係は5Gのこと以外考えていないですよ。銀行で手数料を買ってはいけないのはただの手数料稼ぎにされるだけではなく一つの銘柄しかわからないからです。
●検査
営業になりたての頃、成績が上がらない頃は土日もなく外訪活動するのが当たり前です、それは令和になった今でもです。その月曜日は土日の成果である保険の申込書を素預かり(預かり表を発行しないで書類を預かること)して出社していました。月曜の朝からルンルンですよ。まずまずの金額の契約です。ロッカーで荷物をしまって、営業室に入ろうとするとインターフォンがなります。『なんだなんだ?』通常の検査であれば支店の前にゾロゾロとスーツ姿が集まっているのでそれを見てUターン、駅のコインロッカーに持ってちゃいけないものをぶち込んで素知らぬふりで支店に出勤するのですが、今回は勝手が違います。次長が言います『金融庁検査だ!』半沢直樹を御覧になった方は覚えているかもしれません。片岡愛之助さんが演じたおねぇ言葉の金融庁検査官。実際の検査官にはオネェはいませんでした。私の所属する店に金融庁の臨店検査が入ったのです。ありえない、160店もあるのにうち!?土日に営業していた私は鞄の中に印鑑のついた保険申込書、払戻請求書がバッチリ入っています。通常の検査でもそんなもの持っていたらただでは済まないのですが、金融庁検査で見つかろうものなら『銀行員としての死』が待っています、それも支店の大勢が。さてどうする?小さい店だ、すぐに我々のいる2階に上がってくるぞ。鞄から書類を取り出し、木を隠すなら森の中!書庫の保険申し込みキット置き場に隠します。ダメだ、ここは外の空気に触れていて安心できん!すぐ取り出しコピー機の給紙の引き出しの中にぶち込みました。ドアが開いて『金融庁です、動かないでください!』あ、本当にそんなこと言っちゃうんだ。現実感がありません。ガチャガチャと引き出しが開けられ、個人の鞄もチェックされます。普段の行内検査とはまるで違うチェック。いつもは机なんかちょっと見て『はーい、いいよー』なのに今回は『この付箋は何ですか?個人情報ではないのですか?』、引き出しの下にも何も隠されていないか、手帳の中は?営業車のマットの下、書庫の隙間、隅々までチェックが及びます。『やめてくれやめてくれ』心の中で叫びます。一瞬いなくなった隙を見て書類と預かり票を持って外に出ます。『おい、あおやんどこいくんだ!?』次長から声をかけられるも、『お客さんとの約束に遅れちゃうんで!!(かまってられるかい、これが見つかったらワイもアンタも死ぬんや!)』九死に一生です。本来若手は検査の書類運びなりで、営業どころじゃないのに、シレッと営業に出かけます。おそらく支店の中では『あいつ何なんだ』とみんなが激怒していることでしょう。呑気な連中だよ、私の苦労も知らずに。こうして支店は救われたのでした。
ここの支店はまぁ、こんなところ。続きは次回に。